はじめてのTDSP【part2】データ活用に"翻訳者"はいるか?PoCで終わらせない!TDSPの5フェーズを完全解説【実例つき】

TDSP(Team Data Science Process)の5つのフェーズを、製造業・卸売業の事例とともに実務目線で解説

 前回の記事(はじめてのTDSP【part1】データサイエンスとデータ分析の違い、知っていますか?)では、「データ分析」と「データサイエンス」の違い、そして両者をつなぐ「データ翻訳者」の重要性についてお伝えしました。今回は、その「データ翻訳者」、つまりデータエンジニアが実際にどのようにプロジェクトを進めていくのか、TDSPの5フェーズを通じて具体的に見ていきたいと思います。

 また、この記事では、TDSPの5つのフェーズを実務的な視点で解説し、製造業と卸売業の具体例を通じて、各フェーズでのデータエンジニアの役割を詳しく見ていきます。

TDSPの5フェーズとは

 TDSPは、PoC(概念実証)で終わってしまうデータサイエンスプロジェクトを防ぐために設計されたフレームワークです。技術検証だけでなく、運用への橋渡しまでを見据えた設計が特徴です。TDSPは、以下の5つのフェーズで構成されます:

  1. Business Understanding(ビジネス理解)
  2. Data Acquisition and Understanding(データ収集と理解)
  3. Modeling(モデリング)
  4. Deployment(展開)
  5. Customer Acceptance(顧客評価・受け入れ)

 重要なのは、これらを順番通りに実行するだけではなく、実務では前工程に戻る"反復型プロセス"として動くことが前提になっているという点です。

各フェーズの目的とポイント

各フェーズでのデータエンジニアの役割を中心にみていきたいと思います。

1. ビジネス理解

 ここでデータエンジニアは、現場の声を丁寧に聞き取り、データサイエンスの言葉に変換する重要な役割を果たします。

  • プロジェクトの目的と、期待されるKPI(成果指標)を定義します。
  • データサイエンティストが「なぜそれをやるのか」を理解できるよう、ビジネス側との合意を形成します。
  • 現場の「困りごと」を、具体的な「解決すべき課題」に落とし込みます。

2. データ収集と理解

データの可能性と限界を両方の視点から理解し、プロジェクトの方向性を調整します。

  • 既存システムやセンサーからのデータを取得。
  • 欠損値、外れ値、データ粒度などを調査し、実際に使えるかを見極めます。
  • データの品質や量が、当初の目的を達成できるかを評価します。

3. モデリング

技術的な成果をビジネス価値に変換する重要な役割を担います。

  • 特徴量エンジニアリングとアルゴリズム選定。
  • モデルの性能評価には、ビジネス観点のKPI(例:精度、再現率、コスト削減効果)も加味します。
  • モデルの結果を、現場が理解できる形で説明する準備をします。

4. 展開

データエンジニアは、技術と現場の橋渡し役として、スムーズな導入をサポートします。

  • モデルを実システムに組み込む。API化、バッチ実行、BIツール連携など形態は多様。
  • 継続的に学習・更新できる構成を目指します(CI/CD化)。
  • 現場の運用負荷を最小限に抑える設計を心がけます。

5. 顧客評価・受け入れ

現場の声を丁寧に拾い上げ、次の改善サイクルにつなげます。

  • モデル結果が、現場で「使える」「納得できる」状態であるかを確認。
  • 意見を収集し、改修と再評価を繰り返します。
  • 現場の「違和感」を、具体的な改善ポイントに変換します。

実例① 製造業の予兆検知

目的:突発停止の予兆を検知して、設備の稼働率を上げる。

対象データ:温度、振動、電流などのセンサーデータ(時系列)

特徴

  • 異常発生の前に特有の振動パターンが見られることを初期分析で発見
  • ランダムフォレスト、XGBoost、LSTMなど複数モデルで評価
  • APIでスコア化し、Slack通知 + 作業員へアラート送信

受け入れ

  • 実運用前に、現場の熟練者のフィードバックを得てモデル改善
  • 検出の「早すぎる/遅すぎる」問題を閾値調整で対応

翻訳者の役割

  • 現場の熟練者の「感覚」をデータの特徴量として取り込み
  • アラートのタイミングを、現場の作業フローに合わせて調整
  • 技術的な説明を、現場が理解できる「設備の状態」として表現

実例② 卸売業の売上予測

目的:取引先ごとの月次売上を予測し、在庫と販促の最適化を支援

対象データ:受発注履歴、販促イベント、営業メモ、季節変動要素

特徴

  • ProphetやLightGBMで季節性やイベント影響を考慮したモデルを構築
  • 営業担当別の予測納得度を高めるために、予測根拠(重要特徴量)も可視化
  • 予測結果はBIツール上で毎月更新&アラート通知あり

受け入れ

  • 営業チームとのワークショップで「違和感のある予測」を整理し、モデル改善につなげる
  • 外部要因(新商品、特売など)をどう取り込むかが改善ポイント

翻訳者の役割

  • 営業担当の「勘」をデータとして定量化
  • 予測結果を、営業活動に直結する「アクション」として提示
  • モデルの説明を、営業が納得できる「商談のポイント」として表現

TDSPフェーズの進行と反復

 TDSPはウォーターフォール型のように見えて、実態は「スパイラル型プロセス」です。 たとえば:

  • モデルの結果から「新しい特徴量が必要」と気づいて前のフェーズに戻る
  • 現場からの声で「予測粒度を変えたい」となり、ビジネス目的自体を再定義

このように、柔軟に戻りながら改善する前提でプロジェクトを設計することが重要です。

まとめ:フェーズは循環する

 TDSPの5フェーズは"線形"ではなく"循環"します。最初から完璧な流れを目指すのではなく、 「改善しながら深めていく」ことが現場での成功のカギです。

特に、受け入れフェーズでの現場との対話を大切にすることで、 モデルの"運用定着率"は大きく変わります。コミュニケーションの大切さはあらゆるプロジェクトで共通ですね。

そして、この循環を支えるのがデータエンジニアの存在です。技術と現場の間を行き来しながら、データの価値を最大化する。それが、TDSPを成功に導く重要な要素なのです。

次回は、このTDSPをさらに発展させた「MLOps」について、具体的な実装方法とともに解説します。お楽しみに!


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